2014年7月に、厚生労働省より「平成25年国民生活基礎調査 結果の概要」が発表されました。ここでは、子どもの貧困率について、3回分の調査(平成19、22、25年)を用いて年齢別や性別などのさらに詳しい動向を見ていきます。
●ここにあるデータは、厚生労働省「国民生活基礎調査」平成19年(2007)、22年(2010)、25年 (2013)を統計法(平成19年法律第53号)第32条の規定に基づき、厚生労働省の許可を得て個票を二次利用したものです(平成26年8月28日付厚生労働省統発0828第1号)。
●引用の際には、「阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006、2009、2012年」貧困統計ホームページ」と明記してくださるようお願い致します。
<データと定義>
• 厚生労働省「国民生活基礎調査」平成19年、平成22年、平成25年.
• 貧困率は、各調査年の前年の所得を聞いた質問から 計算されるため、貧困率の該当年は2006年、2009年、2012年.
• 所得の定義は、等価可処分世帯所得(世帯人数で調 整した税後・社会保険料後・社会保障給付後の世帯 合算所得)。再分配後所得とも呼ばれる.
• 世帯人数を調整する等価スケールは、世帯人数の平方根. 相対的貧困率は、等価可処分世帯所得が中央値の50%以下のものの割合.
(各図は、図上で左クリックすると 拡大できます。)
• 子ども(20歳未満)の貧困率は、2006年から2012年にかけて上昇傾向にあります。
• 2006年から2009年にかけては、「夫婦と未婚子のみ世帯」、「三世代世帯」の貧困率が上昇した一方、
「ひとり親と未婚子のみ世帯」の貧困率は減少しました。しかし、2009年から2012年にかけては、「夫婦と
未婚子のみ世帯」の貧困率は横ばいですが、「ひとり親と未婚子のみ世帯」の貧困率は、2006年の貧困率を
上回る率となりました。
• 2006年から2012年にかけて、三世代世帯に属する子どもが大幅に減少しました(-7.3%)。
その代わりに、「夫婦と未婚子のみ世帯」の子どもが増加しています(+5.4%)。
• 「ひとり親と未婚子」も微増(+1.9%)していますが、三世代世帯の減少の多くは、三世代世帯よりも低い貧困率の
「夫婦と未婚子のみ」に吸収されており、子どもの世帯タイプの変化が子どもの貧困率の上昇の主原因とは考えられません。
• 世帯タイプの分布が2006年のまま、各世帯タイプの貧困率が2012年のレベルになったとしても、 貧困率は殆ど変りません。
子どもの再分配前/再分配後の貧困率
• 2006年には、再分配後の貧困率の方が、再分配前より高いという「逆転現象」がおこっていますが、2009年では、
逆転現象が解消されています。
• 2012年は、逆転現象は見られませんが、男児では再分配効果が弱まっています。女児では、再分配前の貧困率が
上昇したこともあり、再分配効果も高まっています。
• 子どもの年齢別にまた、政府貧困削減効果も大きいことがわかります。その結果、再分配前に比べて、貧困率(再分配後)
を見ると、年齢が高いほど貧困率が上昇していることがわかります。
• 再分配前の貧困率から再分配後の貧困率の差が、政府の所得移転による貧困削減効果ですが、再分配前の貧困率が年齢の
高い子どもの方が高く、再分配後のほうが、子どもの年齢層による格差は小さくなっています。
• 子どもの貧困率は、子どもの年齢よりも、父親の年齢に関係しています。現在の父親の年齢別に見ると、20歳代前半
から50歳代後半にかけて、子どもの貧困率は減少します。そして、50歳代後半に再び上昇します。この傾向は、労働
市場における男性の状況を反映しています。特に、20歳代前半(20-24歳)の父親を持つ子どもの貧困率が高くなって
います。
• 子どもが生まれた時の父親の年齢別に見ると、子どもの貧困率は20歳代前半で高く、30歳代にて低くなっていった後、
40歳代で上昇、50歳代前半では非常に高くなっています。
注: (正規・非正規)の区分は、一般常雇(期間定めなし、契約1年以上、1月以上1年未満の契約、日々または1月未満の契約)の雇用者を、勤め先での呼称別に区分し最集計したもの。正規は「正規の職員・従業員」、非正規は「パート、アルバイト、派遣職員、契約職員、嘱託、その他」。
「日々または1月未満の契約」については、サンプル数が少ないため貧困率は集計していません。
• 父親の就労形態が一般常勤雇用(期間定めなし)の子どもが最も貧困率が低く、父親が被雇用者の中では契約期間が短いほど
貧困率が高いことがわかります。
• 勤め先の呼称を基に正規/非正規に分けると、非正規の被雇用者の父親を持つ子どもの貧困率は3割を超えます。
• 父親が自営業者の場合も貧困率が高く、自営業(雇用者なし)は「仕事なし」と並び4割近い貧困率の高さとなっています。
注: (正規・非正規)の区分は、一般常雇(期間定めなし、契約1年以上、1月以上1年未満の契約、日々または
1月未満の契約)の雇用者を、勤め先での呼称別に区分し最集計したもの。正規は「正規の職員・従業員」、
非正規は「パート、アルバイト、派遣職員、契約職員、嘱託、その他」。
「日々または1月未満の契約」については、サンプル数が少ないため貧困率は集計していません。
子どもの貧困率は、母親の就労状況には、それほど影響されません。
• 母親が被雇用者の場合、契約期間による違いはさほど大きくありません。
• 母親が正規雇用の被雇用者であると、子どもの貧困率は低くなりますが、その影響は父親が正規雇用である場合に比べ
小さくなります。
• また、逆に、母親が非正規雇用であっても、父親の非正規雇用の場合に比べ、貧困率は低いです。
• 母親が「仕事なし」の場合の貧困率リスクは、一般常雇の場合と殆ど変わりません。これは、父親の所得が高いために、
母親が就労していないからと思われます。
•しかし、母親が 家族従業員、自営業(雇用人なし)の貧困率は男性と同様に突出して高く、母親が 非正規雇用である場合
に比べても二倍近くとなります。
• 父親の学歴別に子どもの貧困率を見ると、まず、小・中学校卒の父親を持つ子どもの貧困率が突出して高いことがわかります。
• 高卒、専門学校卒、短大・高専卒では、子どもの貧困率は殆どかわりません。
• しかし、大卒では6.3%、大学院卒では1.4%と、子どもの貧困率は大幅に低くなります。
• 母親の学歴別に見ても、小・中卒の母親を持つ子どもの貧困率が特に高く(42.8%)、父親が小・中卒の場合よりも
さらに高くなっています。
• 高卒の場合は、20.3%と小・中卒に比べ半減するものの、依然として高い数値です。
• 専門学校、短大・高専では、高卒よりも低い貧困率となっています。
• 母親が大卒、大学院卒の場合は、共に、低い貧困率(約7%)となっていますが、父親が大卒・大学院卒の場合に比べる
と若干高くなっています。
• 最後に、世帯内の子どもの人数別に貧困率を見てみましょう。まず、子どもの貧困率は子どもが4人以上の世帯にて
特に高いことがわかります。
• 子どもの数が2人の世帯の貧困率は、子どもが1人の世帯の貧困率よりも低くなっています。