国際機関や先進諸国では 子どもに焦点をあてた貧困・格差指標の取り組みがなされています。前出の「国際機関による貧困指標」のEUラーケン指標の例、「主要国(例)の貧困指標」で各国事例について簡単に触れています。これら以外の事例も含め、子どもに関する指標の取り組み、その中核となる子どもの貧困率についてEU各国、国際機関の削減目標設定状況を紹介します。(Takezawa 2013)
EUでは2000年代半ば以降、子どもの貧困削減がEU政治の優先目標となりました(TARKI2010)。2007年にはEU理事会と各国政府により EU子どもの貧困と子どものウェル・ビーイング特別委員会(EU Task-Force on Child Poverty and child Well-being)が設置されました。そこでの提言を受けて、2008年の各国National Strategy Reportにおいて24加盟国が子どもの貧困を優先課題として位置づけ、うち多数の国が子どもの貧困率削減目標値を設定しました。
TARKI(2010)によれば、2008-2010年のNational Strategy ReportあるいはNational Reform Programsにおいて、子どもの貧困率削減目標を設定している国は下記表の通りです。うち最も大胆な目標設定(0%)を行っているのはイギリスです。
EUのうち政府が子どもの貧困に関する目標値を設定している国 (2008-2010年の各国状況)
国名 |
目標 |
起点値 |
直近値 |
目標値 |
ベルギー |
0-15歳の貧困率 |
15.5%(2004年) |
15%(2006年) |
12%(2010年) |
ブルガリア |
0-17歳の貧困率 |
|
18.8% (2007年) |
15%(2010年) |
エストニア |
0-15歳の貧困率 |
21.5%(2004年) |
17.4%(2006年) |
16.8%(2010年) |
ギリシャ |
0-17歳の貧困率 |
|
23%(2006年) |
18%(2013年) |
キプロス |
0-17歳の貧困率 |
|
11%(2006年) |
10%(2010年) |
ハンガリー |
0-15歳の貧困率 |
|
19%(2006年) |
12%(2013年) |
オーストリア |
0-17歳の貧困率 |
15%(2004年) |
14%(2007年) |
3分の1減(2016年) |
スロヴァキア |
0-15歳の貧困率 |
|
17%(2007年) |
2011年までに2004年値より4%ポイント減 |
フィンランド |
0-17歳貧困率 |
12.2% (2005年) |
12.2% (2007年) |
10% 未満(2010年) |
イギリス |
0-17歳貧困率 |
26%(1999年) |
22%(2007年) |
2010年までに半減、2020年までに0% |
出典:TARKI(2010) VolumeⅡAnnex2.3より作成. (Takezawa 2013)
【イギリスの取り組み】
・1999年にブレア首相(当時)が「子どもの貧困を2020年までに撲滅する」と宣言。中間目標として、2004年度までに
1998年比で子どもの貧困率を25%削減、2010年度までに同年比で50%削減する目標を設定。
・インフレ抑制と高い雇用率を維持可能な経済運営、福祉から就労への取り組み、手当の拡充、 最低賃金引き上げ、保育や
教育への政府支出の拡大、サービス実施体制の再編などを実施。
・中間目標として掲げた、2004年度までに1998年比25%削減、2010年度までに同年比50%削減する目標達成に失敗。
・2010年には子どもの貧困対策法(Child Poverty Act)が全政党賛成により可決。2020年までの子ども貧困削減目標が
新たに設定。しかしながら、2008年の経済危機による影響や、2010年の政権交代等によって、2020年までに貧困撲滅
という目標達成は危ぶまれている(岡久2008・ブラッドショー・所 2013) 。
【表に非掲載の国(フランス、アイルランド、ラトビア、リトアニア、スロベニア)の取り組み 】
・子どもに限定せず、子どもを含む全国民の貧困率を政策目標値として設定している。
・フランスでは2011年までに貧困率を3分の1に、アイルランドでは2012年までに2012年までに 2-4%、2016年までに
0%とする目標が設定されている。
・2010年合意のEUROPE2020戦略で、達成すべき目標のうち「貧困・社会的排除」で子どもの貧困率を目標に挙げている
のはイギリスのみ。
・2012年現在 EU2020戦略「貧困・社会的排除」の国内ブレークダウン目標に子どもの貧困率を含むのは、イギリスと
ギリシャ。
・アイルランドもブレークダウン目標に子どもに関する目標を含める合意がなされているが、2012年段階では具体的設定
されていない。
<1> スウェーデン
スウェーデン政府は2003年より子どもの権利条約の履行状況を把握する目的で、指標の開発を開始しました。スウェーデンの子ども政策は、子ども権利条約を基盤とし、指標も権利条約を基礎として作成されます。
2010年よりスウェーデン統計局は、子どもオンブズマン局と共同で、6分野45指標(表5.5)を定期的に更新すると共に、過去の時系列データも整備する作業を担当することとなりました(同局のウェブサイト上で2012年より公表)。
同サイトでは、国レベルだけでなく、地域別(County、Municiparity)についてもデータが整備され,子どもウェル・ビーイング指標の地域別高低をマップ表示することもできます。
スウェーデンは政府によるCWIデータ整備の最先端といえるでしょう。
<2> イギリス
イギリスにおけるCWI作成は民間非営利団体が先駆けです。
Save the Children:
2002、2005年に公表したほか、2006年からはThe Children’s SocietyがThe Good Childhood Inquiry調査を開始。
イギリス連邦政府:
地方自治省が同省作成の地域別剥奪指標の枠組みに沿って2009年に地域別の子どもウェル・ビーイング指標を作成公表。
その後、統計局が2010年よりMeasuring National Well-being (MNW) プログラムを開始、国民全体を対象としたウェル・
ビーイング指標を開発し、2011年に試行版が公表。MNW作成をめぐる議論の中で子どもを対象とするウェル・ビーイング
計測の重要性が指摘され、the Children and Young People’s Well-being Advisory Groupが設置され、大学教授、民間非
営利団体等をメンバーとして検討が進められました。
2011年、MNWの10分野(1.個人的ウェル・ビーイング(生活満足度等)、2.我々の関係性(家族や友人関係)、
3.健康、4.我々が行うこと(学校、仕事、余暇とそのバランス)、5.我々の生活環境(住居、地域環境)、
6.個人の経済状態(所得や資産)、7.教育とスキル、8.一国経済状況(1人あたり国民所得、インフレ率)、
9.ガバナンス(民主主義)、10.自然(環境)に沿って、各分野の子どもに関する指標として何を含めるべきかの検討。
最新の2013年1月報告書においては、各分野の統計指標の候補が挙げられており、各指標の調査サンプル、年齢、質問文
などの一覧がまとめられ、どの指標が最も適当か、候補となる統計を整理し議論(Theodore2013)。
<3> アメリカ
アメリカでは二つの民間非営利団体が指標作成を主導してきました。
Foundation for Child Development:
1970年代よりCWIを開発、公表。最新2012年報告書によれば、1975-2011年のデータが7分野28指標として整備され、
分野毎のスコア、総合スコアにより時系列変化をみることができます。
The Annie E. Casey Foundation:
1990年よりKIDS COUNTの名称で、子ども関連主要10指標(低体重出生率、乳幼児死亡率、1-14歳死亡率、
15-19歳死亡率、10代出生率、高校中退率、16-19歳ニート率、フルタイム就労の親がいない世帯の子ども率、
子ども貧困率、ひとり親の子ども率)について、一国単位のほかに、州別、郡別データを公表しています。
政府の取り組み:
1994年にThe Federal Inter-Agency Forum on Child and Family Statistics(連邦政府内の子ども・家族関連統計を
扱う22部局間の連絡調整機関)が設置。1997年より7分野(家族と社会環境、経済状況、医療、物理的環境と安全、行動、
教育、健康)の指標を毎年公表しています。